これは、HAYAが実際に体験したことを物語風に書いています。
あれは明津君(仮名)という友達の家へ遊びに行った日のことです。
明津君と色々な雑話をしているうちに、いつの間にか真夜中になってしまいました。朝から用事のある私は1人で家に帰ることにしました。その日は自転車でした。
季節は夏なので寒くはなかったのですが辺りは真っ暗でした。それもそのはずです。時刻はすでに丑三つ時をまわっていたし、明津君の家からは木々が鬱蒼としていて外灯もほとんど見当たりませんでしたから。
先程、明津君と怪談話をしていたせいもあって、嫌な感覚が頭に広がっています。正直、怖くてたまりませんでした。
私は急いで自転車を走らせました。辺りは妙に静まりかえっています。自分の呼吸の音だけが耳に残ります。
しばらく走ったときでした。何やら、後ろに気配を感じはじめました。何かが追いかけてくるような…。
勇気を出して振り向いてみましたが、何もいませんでした。壊れた外灯が不規則な点滅をくり返しています。
「何もいない…」ホッとして首を前に戻しました。
でもすぐに自分の誤りに気付いたんです。それは視界に入らなかっただけなんです。
やっぱりいるみたいです、何かが。
…私のすぐ背後、そして視界より少し上空に。
気が動転した私は、一瞬にして友達のしていた怪談を思い出してしまいました。その怪談とは、幽霊が首をクルクルと回転させて笑うというものでした。そいうえばそんなホラー映画も見たことがあります。
それは今の状況と重なり、否応なしにリアルな想像を私にさせました。
…このまま何ものかが私を追いこし、首をクルクルと回転させて笑うという想像を。ゾゾ〜っ!
かつてない速さで自転車をこぎました。もう目は硬直して前しか見れません。しかし私の脳は、すぐ隣に私を追い越そうとする何ものかの気配を感じつつあったのです。
しかしそのときです。そのころ私生活で心理ゲームにハマっていた私は、とっさに幽霊の心理を考えてしまったんです。
例えば首を360度クルクルとまわせることは、何の実用性があり、本人はどんな気分なのだろう?
きっとその首をまわす能力は、人を驚かすだけのために発達したのだろう。到底、何ら実用的に発達したとは思えない。非常に無駄な機能だ。
もしあなたが首を回転できたとして、それを無表情で、いや、笑いながら人前でやるところをリアルに想像してみよう。クルクルクルクル…
…結局それは何の意味があるのだ?得意げに自慢したいのか?「ビックリした?ウフフ」ってことか?
幽霊などの奇怪な能力は、常に「こうすれば怖がるかな?ドキドキ…」と研究して発達させたてきた違いない。彼らの努力の結晶なのだ。しかし幽霊さん、一発ネタだと2回目からは見ている方もやってる方も辛いと思うのです。
私なら、ただ驚かすことに命(?)をかけている自分を客観的に考察し、こう呟くに違いない。
「俺、何やってんだろう…」(首をまわしてるのさ!ウフフ)
そして、そのナンセンスな能力を背負っている宿命と、自己の存在意義に一生(?)悩み続けることだろう。
…成仏できん。
そうとっさに思いついた私は、突然その場でクスッと笑ってしまいました。
奇怪な行動は一種の自己主張なのだろう。例えば首をまわすことで人の注意を自分に向けたいのだ。私を見て〜!(…ちっとも見たくないぞ)
そう考えると案外人間臭い奴らなのかもしれない…。ガハハッ!
すると不思議なことに、その後は何の気配もしなくなったんです。
もの凄く愉快になってしまった私は1人で大笑いしながら帰り道を急ぎました。その後、奇怪な現象は何1つ起こりませんでした。先程の気配も気のせいだったのかも知れません。
暗闇の中、私は髪を振り乱しケラケラ高笑いをしながら超高速で走行していきました。
そういえば、唯一すれ違った人が驚きの悲鳴をあげて逃げていきました。どこにも幽霊なんていなかったのに、何故?
|