サンタとおばあさん
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佐々木 悦子 著
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さあ、今年もクリスマス・イブがやってきた。
北極の空を勢いよく走っていくのは、トナカイのウグとハグ。元気いっぱいで、大きな橇を引っ張っているよ。乗っているのは、もちろんサンタクロースと、プレゼントがぎっしり詰まった大きな袋。
おや、そのあとから、もう一台、大きな橇が走っていくね。こちらを引っ張っているトナカイは、ウッポとヤッポ。ウグとハグの、おとうさんとおかあさんだ。あらあら、橇からこぼれ落ちそうに大勢乗り込んでいるのは、ゴブリン子ども連盟の連中じゃないか!
「ゴブリン子ども連盟って、なに?」なーんて言ってる君は、去年のサンタのお話を読んでないってことが、ばれちゃったよ!
そうなんだ。去年のクリスマスに、サンタのトナカイたちを誘拐して、『おいらたちにもクリスマス・プレゼントをおくれ!』って、脅迫状を書いたのが、このゴブリン子ども連盟なんだったよね。そこで、今年は、サンタはゴブリン小人のこどもたちに、ビッグなプレゼントを用意したんだ。
つまりね、いつも寒くて暗い坑道の中で、サンタクロース財団のために、宝石を掘り出す仕事をしている彼らを、あたたかいところへ連れ出してやろうってわけだ。行く先はもちろん南半球。12月25日にあたたかいところといったら、オーストラリアにきまりさ。
そこには、サンタのいとこが大きな牧場と大きな別荘を持っていて、悠々自適の毎日をおくっている。そこへゴブリン子ども連盟ご一行様をお連れして、愉快なクリスマスを過ごさせようというのが、サンタのプランなんだ。
「いやはや、なんてにぎやかな連中だ!」
うしろの橇を振り返りながら、サンタはあきれて頭をふった。
「ホイホイホイ、ドウドウドウ
掘って、掘って、堀りまくれ
ゴブリン小人のつるはしは
トロルの骨でも打ち砕く!」
ウッポとヤッポの引く橇の中でひしめき合いながら、ゴブリン小人のこどもたちは腕を振り上げ、声をからしての大合唱。遠くで聞いたら、まるでさらわれていく子どもたちの悲鳴のように聞こえるにちがいない。
北極の雪原では、白熊のおかあさんとこぐまが、びっくりして空を見上げた。
「かあさん、あれはなあに?」
「おやおや、あれはね、悪いいたずらをした子どもたちが、おしおきに、遠い海の無人島に、置き去りにされにいくんだよ。きっと」
「ふうん、そしたら、その子たち、無人島でなにをするんだろうね?」
「そりゃあ、きまってるよ。おたがいに取っ組み合いのけんかばっかりして、ころげまわってるさ」
「ふうん、そっかノ」
こぐまは、母さん熊のひざにねころんで、銀のスプーンで耳かきをしてもらいながら、ちょっぴり、あの追放されていく連中が、うらやましくなってきた。だって、母さんはもちろんやさしくて、いつもこぐまのことを心配してくれてるんだけど、「それはダメよ」「あれもダメ」ってのが多すぎて、うっとおしいこともあるからね。たまには、その無人島とやらで、仲間のこぐまたちと、一日中とっくみあいできたら愉快だろうって思ったのもムリないよね。
さて、ウグとハグ、ウッポとヤッポの足の速さときたら、たいしたもんだ! あっという間に南半球までやってきた。目の下には、オレオレ牧場が広がっている。
「おーい、おーい、オレだよ、オレ!」
腕をブンブン振り回して叫んでいるのは、サンタのいとこのヘロー氏だ。
サンタとゴブリン子ども連盟の一行は、無事に地面に降り立った。
「見てくれ、おれの可愛いわんこを! こいつ、新しい技を覚えたんだ!」
ヘロー氏は、ふところに抱えたムクムクの子犬を、大事そうにそっと草の上におろすと、いきなり大声で叫んだ。
「ごろ〜ん!」
子犬は、うれしそうにピチピチしっぽをふりながら、ヘロー氏の足元に、ごろ〜んところがってみせた。それから、何が始まるのだろうと、サンタとゴブリン子ども連盟一同、かたずを飲んで見守ったが、それ以上はなにも起こらなかった。
「どうだ! すごいだろう?」
ヘロー氏は、満面の笑みを浮かべて、満足そうにわんこを抱き上げた。わんこは無邪気にしっぽをふって、ヘロー氏の顔をぺろぺろなめまわした。ゴブリンのこどもたちは、わあーっという突撃の喚声とともに、大喜びでわんこを取り囲んだ。
「ごろ〜ん!」
「ごろ〜ん!」
「すごいぞ、ごろ〜ん!」
サンタは、ヘロー氏にむかって、あきれたように両手をひろげ肩をすくめてみせた。
「ったくノ、おまえものんきでいいね! じゃあ、この子たちをよろしく頼むぜ。また迎えにくるからノ。そうそう、ウッポとヤッポに、新鮮な水とやわらかい草をたっぷり食べさせてやってくれ!」
サンタは、ムクムクわんこの頭をちょっとなでると、急いで橇に乗り込んだ。
「おっとっとノ。おそくなっちゃった。急げ急げノ。キップ・ケレップ・コロロップ・ハイ!」
サンタがおまじないの言葉をとなえると、ウグとハグが走り出す前に、橇は空高く飛び上がった。さあ、世界中のこどもたちに、クリスマス・プレゼントを配らなくちゃ。
サンタクロースは、真っ黒な夜空にまたたく、数え切れないほどの星を背に、数え切れないほどの町や村の、数え切れないほどの煙突を通り抜け、数え切れないほどの靴下に、たくさんのプレゼントを突っ込んだ。
「やあれ、やれ、これで今年のしごとも終わったぞノ」
からっぽになった袋をたたんで、ほっと一息ついたサンタは、とある町外れの古い建物の窓から、さびしそうな灯りがぼんやりとまたたいているのに気がついた。
「みんなが楽しそうにしているクリスマスの晩に、なんてこった!」
サンタは、橇をまわして、その窓の中をそっとのぞいてみた。
「おやっ、あれはミンナじゃないか?」
そこは『ウキウキ老人ホーム』の一室で、ひとりのおばあさんがベッドに寝ていたんだ。老人ホームのひとたちはみな、下のホールでクリスマスパーティーをウキウキ楽しんでいるというのに、このおばあさんだけはずっと病気だったから、ひとりさびしく薄暗い病室で寝ていたんだ。
「キップ・ケレップ・コロロップノ」
おまじないをとなえ終わる前に、サンタクロースはおばあさんの部屋の窓から、中に飛び込んだ。
「ハーイ!」
「まあまあ、サンタクロースさんですね!」
おばあさんがびっくりして、起き上がった。
「そうじゃよ。たしか、あんたはミンナという名で、わしは80年前のクリスマスに、あんたにお人形をあげたのを、おぼえておるぞ」
「はいはい、そのお人形をいまでも、こうして大事に持っていますよ!」
そういいながら、おばあさんが布団の中から取り出したのは、ぼろぼろになった人形。手足はもぎ取れて、髪の毛はなくなり、目も鼻も口も消えてしまって、知らない人が見たら、これを人形とは思えないだろう。でも、おばあさんにとっては、5歳のときにもらったときと同じに、ステキな可愛いお人形に見えるんだね。
「この子の名はマンナ。わたしのたった一つの宝物なんですよ」
「ほう! よくもまあ、いままで大事に取っておいたもんだ。(でも、これじゃ、人形だか雑巾だか、わかりゃしないねえノ)うーむ、サンタクロースの仕事は、こどもたちにクリスマス・プレゼントを贈ることだが、うーむ、ここはひとつ、うーむ、わしの独断でだな、ちょっぴりおばあさんを喜ばせてもいいんじゃないかなあノ。うん、いいにきまっとる。よーし!」
それからサンタは、おばあさんのぼろぼろの人形を抱き上げて、元気よく叫んだ。
「キップ・ケレップ・コロロップ・ハイ! さあ、ミンナ、これがあんたのマンナだよ! ほら、80年前とそっくり同じだろ?」
「あれえ! ほんとに! わたしの大事なマンナが、すっかりもとどおりになった!」
おばあさんは、大喜びで人形を抱きしめた。
「サンタさん、ほんとにありがとう! おかげで、なんだかすっかり元気になりましたよ。では、わたしも下へ行って、みなさんと一緒に、クリスマス・パーティーを楽しんでくることにしましょう!」
「ウグ! ハグ! 出発じゃ! 急いでオーストラリアまで行っておくれ! わしも、あのにぎやかなゴブリン子ども連盟の仲間に入れてもらって、楽しいクリスマス・パーティーじゃ! それに、あのムクムクわんこに、ごろ〜んをさせたいし!」
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