サンタ・クロースが目をさましました。
「うっ、さむい!」
ブルブルッ。
きのうまでは、夏のような陽気だったのに、
けさはまるで冬のよう。冷たい木枯らしがふ
いています。
さむがりやのサンタは、ふとんを首まで引
き上げると、ベッドの中からリモコンでテレ
ビをつけました。
『おはようございます。だいぶ朝の冷え込み
がきびしくなってきましたね。けさは、まず、
もうクリスマスがきたという話題からはじめ
ましょう。』
テレビの画面から、おなじみのアナウンサ
ーが、笑顔で話しかけてきました。
「えっ! クリスマスだって? まさかぁ、
そんな…」
サンタはびっくりぎょうてん!
かべのカレンダーを見ると、ほら、今日は
まだ10月25日です。
「いったい、もうクリスマスだなんて、どう
いうわけだ?」
『ごらんください! 東京の新宿の高層ビル
の前に、大きなクリスマス・ツリーが飾られ
ました。年々、このツリーが現れるのが早く
なっていますが、10月中に飾られたのは、
今年が初めてです。』
テレビの画面には、ビルの3階までとどく
ような巨大な樅の木が、はなやかなイルミナ
ーションに飾られて立っています。
樅の木のてっぺんには、ソリにのってニコ
ニコ笑っている、サンタの人形がのっかって
います。
「へええ! たまげたねえ…、 こりゃ、お
ちおち寝てもいられんわい」
サンタは、「えいやっ!」とかけごえをか
けて、ベッドから飛び降りました。
「こうなったら、ほんとに、もうクリスマス
にしちゃおうかしら…。いまから、毎日すこ
しづつプレゼントをくばって歩けば、わしも
ずいぶん楽ちんできる。」
そうなんです。毎年12月24日の夜、世
界中の子どもたちに、ひとりのこさずプレゼ
ントをくばるということは、なみたいていの
仕事ではありません。
一年にいっぺんのこととはいえ、年寄りの
サンタにとっては、かなりきついことです。
「よし、決めたぞっ! さっそく今日からで
かけよう」
朝ごはんもそこそこに、 物置から、例の
大きな袋をひっぱりだしてきて、プレゼント
をつめました。
「とりあえず、今日のところは2、30人分
持っていけばいいかな…」
タンスから、赤い服をとりだして、きがえ
ます。
「あれっ! しばらく着ないうちに、きつく
なっちゃった。やれやれ、ふとりすぎか」
ふくろをしょって、トナカイの小屋へいき
ました。
「おおい、ウッポに、ヤッポ、出かけるぞ。
クリスマスだ!」
トナカイのウッポとヤッポが、ねむそうな
顔で、小屋からのそのそでてきました。
そりのしたくができました。
「さて、どこから行こうかな? そうだ、去
年一番最後だった、ユッケとヤンのうちから
行こう。あそこの赤ちゃんも、ずいぶん大き
くなっただろうなあ」
そりをビュンビュン飛ばして、あっという
まにユッケとヤンのいえにつきました。
「あらまあ! サンタさんじゃありませんか。
どうして、いまごろ?」
ユッケとヤンと赤ちゃんのおかあさんが、
窓から顔をだしました。
「いやあ、ちょっと早いけど、メリー・クリ
スマス! 今年ははやめにプレゼントをくば
ることにしたんだよ」
「だめだめ! それはこまります。クリスマ
スはちゃんと12月25日に、きまってるん
ですからね。それまで子どもたちは、まだか
まだかと、毎日首を長くして待ってます。そ
の待っているときが、楽しいのものなのです
よ。さあさあ、子どもたちに見つからないう
ちに、もどってくださいな!」
「そうか、せっかちなのは、おとなだけなん
だ。子どもたちはだれも10月にクリスマス
を祝おうとはしないもんなあ。おおい、ウッ
ポ、ヤッポ、帰るぞ!」
サンタがそりにのって、空をとんでいると、
海のなかにポツンと小さな無人島がみえまし
た。
島のてっぺんで、だれかが一生懸命手をふ
って呼んでいます。
「サンタさーん! こっち、こっち」
「はて? だれだろう?」
そりを島のほうにむけて、急降下しました。
「おお、あれは、もぐらの子のリッキーだ」
「わあい、サンタさんだ! やっぱりきてく
れた。ぜったいきてくれると思ってたんだ。
ずっと待ってて、よかったな!」
リッキーは、うれしそうに、ピョンピョン
とびはねています。
そのとたん、サンタは思い出しました。
去年の12月24日の晩、ユッケとヤンの
いえから帰る途中、ひどいあらしになって、
真っ黒な雲が一面に海をおおってしまい、こ
の小さな島を見落としてしまったのでした。
(しまった! わしは、リッキーにプレゼン
トをくばるのをわすれていたんだ!)
「ぼく、ここでずっと待ってたんだよ。で
も、サンタさんもたいへんだね。世界中の人
間の子どもたちや、世界中のもぐらの子ども
たち全部に、プレゼントくばるんじゃ、時間
かかるよね!」
サンタは、思わずうなずいてしまいました。
「そ、そ、そうなんじゃよ」
サンタが、うそをついてはいけないことは、
よくわかっていました。
でも、この場合、正直に言ったら、リッキ
ーはどんなに悲しむことでしょう。自分だけ
が、忘れられていたなんて…。
サンタは汗をかきながら、言いました。
「ごめん、ごめん、おそくなってしまって、
ほんとうに悪かった。そうなんだよ。なにし
ろ、世界中のみみずの子どもも、わしを待っ
ているんだからねえ。リッキーが一番最後に
なってしまったが、そのかわり、プレゼント
をたくさん持ってきたよ」
そう言って、サンタはふくろの中のプレゼ
ントを全部、リッキーにあげました。
「わあい、すごいや! サンタさん、ありが
とう。10月25日が、ぼくのクリスマスだ!」
リッキーは大喜びで、プレゼントをかかえ
ると、地面の下のいえへ、帰っていきました。
サンタもほっとして、そりにのりこみまし
た。
「リッキー! こんどのクリスマスには、一
番最初にくるからね!」
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