ゆきのふる、さむい ばんでした。
こどもたちは、とっくに あたたかい ふ
とんに もぐりこんで、ねむっています。
でも、サンタさんは ちがいます。
「ああ、あつい! あつい!
ああ、いそがしい! いそがしい!」
おでこの あせを ふきながら、せっせと
はたらいています。
きょうは 十二がつの 二十四か。クリス
マス・イブ!
だから、サンタさんが、いちねんで いち
ばん いそがしい ひです。
「ヒロシには、ひこうき。アンには、おにん
ぎょう。ミゲルには、ふえ。アヤコには、え
ほん…… ようし! これで おわりだ!」
こどもたちへの プレゼントを、ぜんぶ
ふくろに つめました。
「やあれ やれ、さあ、これで、いつでも
しゅっぱつ できるぞ!」
サンタさんが、ほっと ひといき ついた
とき、へやの すみの ファックスが、うご
きだしました。
『こんや、ユッケとヤンのいえに、
あかちゃんが うまれました。
おんなのこです』
どこかで あかちゃんが うまれると、せ
かいじゅうから、ファックスが とどくこと
に、なっているのです。
「ほほう! これは、これは、めでたいこと
じゃ。さあて、プレゼントをひとつ、つけく
わえなくては!」
サンタさんは、そう いいながら、パソコ
ンの スイッチをいれて、おもちゃのそうこ
の リストを よびだしました。
『ローラー・スケート
けんだま
みずでっぽう』
「あれあれ、たったこれだけか! そうじゃ
な、みんな ふくろに つめこんじゃったん
だから。それにしても、おんなの あかちゃ
んが、ローラー・スケートを もらって、よ
ろこぶかなあ? それより、けんだまのほう
が、おもしろがるかも…… だめだめ、みず
でっぽうに しようか? いやいや、これも
だめだ……。さてさて、どうしたら よい
かのう……」
サンタさんは、うでぐみをして、いっしょ
うけんめいに かんがえました。
「いまから、おもちゃこうじょうに、でんわ
をして、おんなの あかちゃんように、ひと
つ、あたらしい おもちゃを、つくって も
らおうかなあ?」
サンタさんは、かべの とけいを みあげ
ました。
「いや、それでは、まにあわない! いっそ
のこと、ファックスが こしょうしたことに
して、あかちゃんが うまれたことを、しら
ないような かおして いっちゃおうか……
いやいや、サンタが うそを ついては、
いけないよ。どうしよう、こまったなあ……
」 サンタさんは、なにか いい かんがえ
が、うかばないかなあと、へやの なかを、
ぐるぐる あるきまわりました。
とつぜん、サンタさんは、ぱっと たちど
まると、うれしそうに ぽんと てを うち
ました。
「そうだ! そうだ! そうしよう!」
そして、サンタさんは、いそいで だいど
ころに、かけていきました。
「さあ、はじめるぞ! まず、バターと さ
とうを よく まぜあわせ、そこに しんせ
んな ミルクを、たっぷり いれて……」
サンタさんの、くちと てが、いっしょに
うごきます。
「そこに、あわだてた、たまごの しろみを
くわえて、……こむぎこを、いれて……」
それから サンタさんは、とだなから、ち
いさい びんを、もってきました。
「あとは、しあげに、この 『サンタじるし
のミラクル・エッセンス』を、パッパッパッ
と ふりかければ、おわりじゃ」
それから、サンタさんは、ざいりょうを
てんぱんに まるく ながしこみ、それを
オーブンに、いれました。
「どうか、うまく やきあがりますように!
キップ・ケレップ・コロロップ・ハイ!」
これは、サンタさんの、ひみつの おまじ
ないです。これを、となえると、たいていの
ことは、うまく いくのです。
しばらくすると、だいどころじゅうに、あ
まく、こおばしい においが、ひろがって
きました。
サンタさんは、いそいそと オーブンを
あけました。
「そーら、できたぞ! まっしろで、ふわふ
わで、あったかい、サンタのクッキーが!
これなら、あかちゃんの プレゼントに、
ぴったりだ!」
その、おおきな、まあるい、できたての
クッキーが、あんまり、おいしそうなので、
サンタさんは、ちょっぴり たべてみたくな
りました。
でも、これは、じぶんが あげる プレゼ
ントなんだから、がまん しなくちゃと、つ
ばを のみこみました。
そして、サンタさんは、できたての クッ
キーを、うすがみで つつんで、まっかな
リボンを かけました。
「さあ、これで、じゅんびオッケー! しゅ
っぱつじゃ!」
イブの よるも、だいぶ ふけてきました。
ある まちの、ひろばのすみで、いっぴき
の すてねこが、ないていました。
「ミャーン、ミャーン……」
まだ ちいさくて、まっしろな、あかちゃ
んねこです。
おなかが すいて、さむくて、さっきから
ずっと ないて いるのに、だれも たすけ
て くれません。
すると、そのとき、タッタッタッ……と、
なにかが、はしってくる おとが しました。
「どお、どお、ここに そりを、とめよう」
まっしろい ひげの おじいさんが、トナ
カイのひく、そりから、おりてきました。
「マギーの プレゼントは、これだ、これだ
」 そのひとは、そりに つんだ ふくろか
ら、つつみを ひとつ とりだすと、そばの
いえの、やねに、のぼっていきました。
こねこが、びっくりして みていると、お
じいさんは、たかい えんとつの なかに、
するすると、はいって いきました。
そのとき、こねこの はなが、きゅうに
ぴくぴく うごきました。
ミルクの、においです。あまく、やさしい、
とろけるような においです。
こねこは、むちゅうになって、においのす
る ほうへ、ちかよって いきました。
ミルクの においは、どうやら、この ふ
くろの なかから、してくる ようです。
こねこは、あいていた ふくろの くちか
ら、ごそごそ、なかに もぐりこみました。
そして、おいしそうな クッキーを みつ
けると、かみを やぶいて たべはじめまし
た。
なにしろ、さむくて、おなかが すいてい
ましたから、この あたたかい クッキーの
おいしさが、たまりません、
とうとう、ぜんぶ たべてしまいました。
おなかが いっぱいに なった こねこは、
ふくろの すみに、まるくなって、ムルルル
と、のどを ならしながら、ぐっすり ねむ
って しまいました。
そこへ、ながい ひげの、おじいさん……、
そう、サンタさんが、かえってきました。
「さあて、あとは、ユッケとヤンの いえだ
けだ! そうれ、いそげ!」
サンタさんは、なにも しらないで、そり
に のりこむと、トナカイたちを、はしらせ
ました。
ユッケとヤンの いえでは、あかちゃんが
うまれた おいわいを していました。
サンタさんが、ふくろを しょって、えん
とつから、はいって いくと、いえじゅうの
みんなが、よろこんで いいました。
「あかちゃんが、うまれたよ!」
「やあ、おめでとう! ちゃんと、プレゼン
トを もってきたよ! まず、ユッケには、
『どうぶつずかん』、それから、ヤンには、
サッカーボール、そして、あかちゃんには、
まっしろで、ふわふわで、あったかい クッ
キー……」
と、いいながら、サンタさんがふくろのなか
に、てを いれると、なにか、ほにゃっとし
た、ものが、あります。
「あれっ! もしかして、つぶれちゃったの
かな? こまったぞ! しかたない、こうな
ったら、キップ・ケレップ・コロロップ・ハ
イ!」
サンタさんが、ふくろから だした てに、
いっぴきの、こねこが、のっていました。
くびに、まっかな リボンを、まきつけて、
ねむそうに あくびをしている ねこが!
「なんじゃこりゃ!……いや、そ、そう、そ
うなんじゃ、これが、その、まっしろで、ふ
わふわで、あったかい クッキー……という
なまえの、こねこじゃ!」
ユッケとヤンは、さっそく、あかちゃんの
ゆりかごに、こねこのクッキーを、ねかせま
した。
クッキーは、うれしそうに、ムルムル い
いながら、ちいさく まるまって、ねむって
しまいました。
その ようすが、あんまり かわいいので、
サンタさんは、クッキーを つれてかえりた
くなりました。
でも、これは、あかちゃんの ものだから、
がまんしようと、おもいました。
(やれやれ、サンタというものは、いろんな
ことを、がまんしなきゃ ならないんだよね
) でも、ユッケと ヤンと あかちゃんの、
うれしそうな かおを みると、サンタさん
も、とっても うれしく なりました。
「では、また、らいねんの、クリスマスに!
」 サンタさんは、にこにこしながら、そり
にのって、かえって いきました。
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