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おせっかいなポスト

佐々木 悦子 著

 まちの こうばんの よこに、ポストが 
たっていました。
 まるくて あかい がっしりとした ポス
トです。ずっと ずっと むかしから ここ
に たっています。
 この まちの ひとたちは、このポストの
ことを、『おせっかいな ポスト』と、よんで
いました。
 こうばんに みちを たずねるひとが、や
ってきました。
「たなかさんの いえは どこですか?」
 しんまいの おまわりさんが、あわてて
ちずを とりだします。
「たなかさんですね? えーと、えーと」
 すると よこから おせっかいなポストが 
おおごえで いいました。
「たなかさんは、ゆうびんきょくの となり
だよ。きのうも おしえたじゃないか!」
 こばやしくんが、はがきをもって やって
きました。
 すると、ポストが こう いいます。
「おい、おい、そんな らんぼうな じでは、
もらったひとが よめないじゃないか!」
 こばやしくんは、むっとして 
「おせっかいな ポストだね!」
といいながら へのじにまげた ポストのく
ちに、はがきを つっこみます。
 さとうさんが、てがみを もってきました。
 すると ポストが こう いいました。
「ラブレターも いいけどさ、たまには い
なかの おっかさんにも だしておやりよ」
 さとうさんは、むっとして
「ほんとに おせっかいな ポストね!」
といいながら、とじかけた ポストのくちに、
むりやり てがみを つっこみました。 
 でも、いつも こんな いじわるばかり 
しているわけでは ありません。
 ちいさな はるちゃんが、おじいちゃんの 
たんじょうびに、たぬきをかいた カードを 
もってきました。
「ほうほう、けっこう じょうずに かけた
じゃないか!」
 そういうと、ポストは くちを ぐうーん
と したへ のばしてやりました。
 こんなことも ありました。
 あしの わるい よしださんの おばあさ
んが、ともだちに てがみを だそうと、げ
んかんを でると、そこに ポストが たっ
ていたのです。
「なに、さんぽの ついでに、ちょっと よ
ってみただけさ」
 ポストは、ぶっきらぼうに いいました。
 まちの ひとたちは、この おせっかいな
ポストを、けっこう きにいっていました。
 でも、このごろは みんな でんわや、で
んしめーるを つかうようになって、てがみ
を かかなくなりました。
 しんまいだった おまわりさんも、すっか
り まちのことを おぼえて、たのもしくな
りました。
 こうばんの よこの ポストは、むっつり 
だまりこんでいることが おおくなりました。
 そんなあるひ、だれかが いいだしました。
「こうばんの よこの ポスト、どうしたん
だろう?」
「あの おせっかいのポストかい?」
「なくなっちゃったよ」
「うっそー!」
 ほんとうに こうばんの よこに ポスト
は ありませんでした。  
 まちの ひとたちは、このごろ おせっか
いなポストのことを わすれていたのに き
がつきました。
 そして、なんだか きゅうに ポストに 
あいたくなりました。
「だれかに ぬすまれたのかな?」
「おまわりさんの くせに、ポストが いな
くなったのに きがつかないなんて!」
 おまわりさんは あわてて ポストをさが
しに でかけました。まちの ひとたちも、
てわけして さがしました。
「いたぞ!」
「みつけたよ!」
 あかくて まるいポストが、まちはずれの 
はしの したに、ぽつんと たっていました。
「どうして こんなところに いるの?」
 みんな ポストを とりかこんで、くちぐ
ちに いいました。
「なに、さんぽの ついでに、ちょっと か
わを ながめていただけさ…」
 ポストは、くちを へのじに まげて、そ
っけなく いいました。
 でも、まちの ひとたちには、すぐに わ
かりました。
 おせっかいなポストが、このごろ ずっと、
さびしかったことが。
 それからは、みんな まえよりも せっせ
と てがみを かくように なりました。
 おせっかいなポストを よろこばすために
ね。

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