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いまは亡き鉛筆
「よい子つよい子保谷の子」
に捧げる物語

佐々木 悦子 著

 昔、ある町に3人の子どもがいました。「よい子」と「つよい子」と「保谷の子」です。
「よい子」は、なにしろよい子ですから、ほんとによい子でした。「つよい子」も、もちろん強い子ですから、ほんとに強い子でした。「保谷の子」は、なるほど保谷の子ですから、ほんとにダサくてトロくて、一年中鼻水たらしてカリントウを食べながらニコニコしているような子でした。でも、3人はとても仲良しでうまくやっていました。
「保谷の子」が宿題を怠けていると、「よい子」がそっと手伝ってやります。「保谷の子」がまわりのガキにいじめられそうになると、「つよい子」がぱっと飛んできて守ってやります。3人はどこへ行くのも何をするのも一緒でした。
 ところがある日突然、「保谷の子」が姿を消してしまいました。かわりに「西東京の子」がやってきたのです。「西東京の子」は、高そうなブランドもので身をかためていますが、よく見るとそれは本物らしくできたニセモノです。とくに悪いこともしないけれど、特別良いこともしない、一年中無表情な顔で半額バーガーを食べているような子でした。
「よい子」と「つよい子」は、はじめのうちは「西東京の子」とも仲良くしようと近づいてみましたが、どうも「西東京の子」と一緒にいても面白くないのです。おまけに「西東京の子」のまわりの空気が薄いのか汚いのか、なんとなく息苦しくなってきました。
 結局、「よい子」と「つよい子」もいつの間にか、いなくなってしまいました。
「西東京の子」はそれからずっと、ニセブランドを着て、無表情で半額バーガーを食べながら、わけもなく町の中を歩き回っているのです。

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