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エリーゼのために

佐々木 悦子 著

「おはよう、わたしのエリーゼや」
 ボゾン婆さんが、いそいそと菜園にやってきました。
 ぼうぼうに生い茂った葉をかきわけると、
婆さんはにっこりしました。
「おやまあ、今日はまた一段と、美人におな
りだねえ!」
 ボゾン婆さんが、嬉しそうに話しかけているのは、一面に緑色のブツブツがくっついた、
一本のニガウリでした。
「わたしのかわいいエリーゼや…」
 次の瞬間、ボゾン婆さんは真っ青になりました。なんと、かわいいエリーゼのおしりが、食いちぎられているではありませんか!
「なんと残酷な!」
 まわりの地面には、犯人が残した足跡が、いっぱいついていました。
「これはあの食いしん坊のイノシシたちのしわざにちがいない」
 そこで、ボゾン婆さんは、愛するエリーゼのために、素晴らしく頑丈な柵を作ってやりました。
「これで安心」
 ところが翌朝やってきたボゾン婆さんは、
かわいいエリーゼの頭に、無残な穴があいているのを発見しました。
「なんて残酷な!」
 見上げたボゾン婆さんの上を、一羽のカラスが飛んでいきました。
「あいつの仕業だ! 生意気なカラスめ」
ボゾン婆さんは、大事なエリーゼのために、柵の上からすっぽりと網をかぶせました。
「これで安心」
 翌朝やってきたボゾン婆さんを待っていたのは、地面にひきずりおろされて、息も絶え絶えになっているエリーゼの姿でした。
「なんて残酷な!」
 あたりの土がもっこりともりあがっています。
「うす汚いモグラの連中だ!」
 こうなっては、哀れなエリーゼの命を守るために、徹底的に戦うしかありません。
 ボゾン婆さんは、ニガウリの木の下で寝ずの番を始めました。
 手にはカラスを打ち落とすための鉄砲、腰にはイノシシを叩きのめすためのこん棒、足にはモグラを踏み潰すための鉄の靴をはいています。
 けなげなエリーゼも、婆さんの愛情に応えようと、今まで以上に、体中に青筋をたててブツブツになりました。
 しんしんとふけていく夜空に、殺気立ったボゾン婆さんの絶叫がこだまします。
「エリーゼのために!
エリーゼのために!」
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